2008年02月13日
川俣晶の縁側過去形 本の虫ネギま!を読む total 2434 count

9巻・75時間目扉絵 1つの流れを補助する2つの流れという構造

Written By: 川俣 晶連絡先

 9巻・75時間目扉絵は、葉加瀬と茶々丸が正面を向いて並んで立っているだけの単純な構図ですが、全く単調さを感じさせません。

 この絵の基本的な流れは、左から右に向かって、やや上向きに進むラインです。

 左側の葉加瀬がやや下、右側の茶々丸がやや上、という人物の位置の上下のずれが基本ラインです。

 この右上がりというラインは、葉加瀬の持つファイル、右手、スカートの裾、不揃いな靴下にも共有されます。

別の2つの流れ §

 この上下関係は、葉加瀬と茶々丸に絡むラインによって更に強調されます。

 まず、葉加瀬は三つ編みや、やや開いた足といった「下広がり」のラインに支えられています。これは葉加瀬が下に向かう存在であることを示唆し、「右上がり」という全体構造を補強します。

 逆に、茶々丸の方は上に向かって広がるケーブル群というラインに支えられています。これは、茶々丸が上に向かう存在であることを示唆し、「右上がり」という全体構造を補強します。

 見事に美しい構造を持った絵です。

 それと同時に、傾いたスカートの裾や不揃いな靴下は葉加瀬のキャラクター性を描く手段としても生きています。

 他の絵でもそうですが、1本のラインに複数の意味が込められている見事な絵です。

葉加瀬の襟元 §

 葉加瀬が白衣の下に着ている黒い服の襟の部分は、V字型です。しかし、右下がりのラインを持つ左半分が手で隠されているため、残った右上がりのラインだけが見え、これも「右上がり」という全体構造を補強しています。「隠す」「見せる」の使い分けが絶妙です。

感想 §

 葉加瀬が下に向かう存在として描かれているのは興味深いですね。

 一般的に「博士キャラ」は足が地に着いていないタイプに描かれることが多いような気がしますが、本来の研究とは地道な作業の積み重ねです。だから、葉加瀬がどっしりと落ち着いた下に向かう流れを持つのは正しい描写というべきでしょう。

 このあと、葉加瀬は超一味の中でも最後の切り札を担う腹心的な立場に立つわけですが、地道な積み重ねなくして巨悪は成し遂げられません。巨悪は暴力だけで倒せたりしますが、巨悪を成立させるには地道さが必要なのです。

UQ HOLDER